高齢者の手指の運動・感覚機能低下とその防止策を調べるために、高齢者12名(69.1±3.8歳)と若年者12名(22.3±4.3歳)を対象に最速タッピング課題を実施した。最速タッピング課題では、7秒間できるだけ速くしかも等間隔に右手の指示された指でセンサーを叩くように指示した。1指課題では人差指、中指、薬指、小指の各指で、2指課題では人差指&中指、中指&薬指、薬指&小指の2指交互で課題を行わせた。課題時の各指の発揮力測定には5台のフォースセンサーを、タッピング指の運動学的計測にはポジションセンサーを用いた。その結果、1指課題では、中指、薬指、小指で高齢者の方が若年者に比べ有意にタップ間間隔が短く、タッピングが遅いことが明らかとなった。指の上行時・下行時両方のピーク速度はすべての指で高齢者の方が若年者よりも遅かった。タッピングを行っていない残りの指の発揮力から指の独立性についても検討したが、群間に有意差は認められなかった。2指の課題では、若年者は全員が課題を実施できたが、高齢者群では中指&薬指で3名、薬指&小指で6名が教示通りに課題を実施できず分析データから除外した。教示通りに実施できた被験者の平均値の比較から、すべての組み合わせで高齢者群の方が有意にタッピングが遅いことが明らかとなった。高齢者群では、さらに手指を使用する趣味をもつ人(活動群5名)とそうでない人(非活動群7名)の比較も行った。統計的な比較は行わなかったが、1指課題の薬指や2指課題で活動群の方が非活動群に比べてタッピングが速い傾向が見られた。これらの結果から、高齢者では特に難しく、複雑な課題において老化による運動機能低下が顕著であること、日常の手指の使用が手指の運動機能の維持に役立つ可能性があることが明らかとなった。今後は、どのような運動をどの程度行うことがもっとも効果的なのかをより詳細に調べる必要がある。
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