研究概要 |
本研究では,歩行障害の改善過程を具体的な対象として,動的環境との相互作用に基づき人間が認知一運動機能を獲得していくメカニズムの解析を行った.特に,今年度は,前年度までに構築した協調歩行シミュレータの歩行訓練装置としての有効性評価をするための実験環境を活用し,実際の歩行訓練への適用とそこでの歩行運動の改善プロセスの体系的な調査を進めた.具体的には,歩行障害に関係する特性として申請者らが扱ってきた歩行運動リズムの位相特性および,自己相似性に注目し,この2つの特性の評価値が歩行訓練の中で改善されてゆく時間発展過程の計測と評価を行った.その結果,シミュレータに実装されているインタラクション機構のパラメータと障害者モデルの歩行運動の特性を関係づける,以下の知見が得られた. ・シミュレータが人間側の歩行リズムの変化を考慮しない一方向的な形式の協調歩行では、歩行障害の位相特性は改善されるが、自己相似性はむしろ健常な歩行とは逆の方向に変化する傾向が観察された。 ・シミュレータの相互作用パラメータを人間側の歩行リズムの変化を考慮できる形式に設定した場合では、位相特性、自己相似性の両方の改善傾向が観察された。 ・シミュレータとの協調歩行による歩行運動の改善プロセスを詳細に計測したところ、位相特性の時間スケールは、自己相似性に比べより短く、両者の改善メカニズムは異なっていた。 ・特に、自己相似性に関しては、シミュレータの相互作用パラメータと時間発展過程における相関が強く、人間側の歩行リズムの変化を考慮できる形式にパラメータを設定すると、その変化の時間スケールが大きく変化し、より短時間で改善する傾向が観察された。 これらの知見は,動的環境との相互作用と歩行機能の獲得の間を関係づけるメカニズムの存在と、そのようなメカニズムを考慮した歩行訓練装置の有効性を示唆するものである。
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