研究課題
本研究の目的は、これまで具体的な検証が進んでこなかった活版印刷術黎明期の書物の表象の変化を明らかにすることである。この目的のため、1)書物の形態の変化の調査、2)その背後にある書物の表象の変化の検討、3)読書の様態からの書物の表象の変化の分析、という三つの課題を設定した。調査対象は、書物の表象の変化を高度に具現化していると予想されるラテン語の聖書とする。本年度は、主として課題1)についての研究を行った。初期刊本の総合目録データベースIISTC、および詳細な初期刊本目録BMCとGWを用いて、注釈が本文ページに印刷されていない初期刊本のラテン語聖書という条件を満たす80点を調査対象に選定した。IISTC収録の白黒画像や、取り寄せた複写デジタル画像による調査に加え、国内外の図書館を訪問して原資料の調査を行い、形態的特徴を具体的な詳細にわたって調査した。なお、許可された場合にはデジタルカメラで資料を撮影した。80点の調査対象それぞれについて、基本的なページ・レイアウトに加え、標題紙の扱い、文章構造の表現方法、行末揃えの方法、句読点の種類、単語の分かれ方、本文以外の要素、ツールの有無、書および各書への序文の構成と順序、読者による書き込みなどの項目について詳細に調査し、調査結果をノートパソコン上でデータベース化した。その結果、形態面での標準化は一様に進展していったのではないことや、色による構造化から複雑な組版技術を必要とする配置による構造化への転換など、技術的にはより複雑で経済面の効率化には反するような多くの特徴が導入されていることがわかった。来年度は、本年度の調査結果に基づき、様々な角度から書物の形態の類型化や統計的な解析を試みることにより、第二、第三の課題について研究を進める必要がある。
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Early Book Society the tenth biennial conference "Codices and Community : Networks of Reading and Production, 1350-1550" (EBS隔次研究大会、2007年7月7〜11日開催予定) (口頭発表)(受理済)