「大腸菌in vivo分子コンピュータ」の設計・構築を目指した研究を行った。設計にはシステム生物学および構成的生物学(synthetic biology)の知見・手法を応用し、細胞内化学反応から成る演算機構実現へ向けた第一歩として、論理ゲートの構築を試みた。購入した画像解析ソフトは細胞が発する蛍光の強度測定に用いた。 大腸菌の菌体内に論理ゲートを実現するため、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子の上流にLacIタンパク質およびLuxRタンパク質それぞれの結合配列を挿入した。ラクトース存在下においてはLacIによるGFPの発現抑制が取り除かれ、アシルホモセリンラクトン(AHL)存在下ではLuxRがGFPの発現を促進する。したがって、ラクトースおよびAHLの両方が存在する培地においてのみ、GFPが発現することが設計上期待される。実験の結果は設計通り、ラクトースおよびAHLの両方が投与された場合のみ、GFPの有意な発現が観察できた。よって、ラクトースとAHLを入力信号とするANDゲートが実現できた。 この成果をiGEM(International Genetically Engineered Machine competition)2006にて発表し、"Best Teamwork and Collaboration"賞を受賞したほか、最も優れた分子部品に与えられる"BestPart"部門でも第3位を獲得した。また、結果の詳細をIET Synthetic Biology誌に現在投稿中である。 基本論理ゲートの構築はほぼ初年度計画通りに行えた。19年度は細胞による演算を多細胞系に拡張し、並列計算を目指したセルオートマトンの構築に取り組む。セルオートマトンはチューリング機械と同等の計算能力を持っことが証明されているため、その実現によって、細胞に汎用的な演算機構を付与できる。
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