研究概要 |
自然界には多数の要素が相互作用し,複雑な現象を生み出す力学系が多く存在する.中でも,経済システムや脳などの生体システムに関する研究は昔から盛んである.近年,観測技術の向上により,メカニズムに関与する要素の振る舞いを同時に観測することが可能になってきた.今後増々,目かに済みの全体像を理解することが望まれている.しかし,膨大な情報から有用な情報を引き出すには,効率の良い解析手法を考える必要がある.本研究において,観測データのみから,元のシステムを構成するネットワーク構造を捉える解析手法を提案してきた. 提案手法の性能を評価する実験として,以下の実験を行った.まず,人工的に結合写像力学系や神経回路網藻出るを構成し,時間発展させることにより時系列データを観測する.その観測データのみを用いて,元のネットワークの構造を推定し,その推定精度をもって提案手法の性能を評価した.また,実験に用いたネットワークのトポロジーとして,近年注目を浴びているSmall-WorldネットワークやScale-freeネットワークを生成し,現実に存在しうるネットワークを模倣している. 実験結果として,多くの相手と作用するノード,いわゆるネットワーク上のバブでない限り,概ねネットワーク構造を推定することができた.さらに,実験の日経225参画企業の株式データなどの実データに提案手法を適用した結果,企業間の株価変動の連動パターンにおいてSmall-Worldネットワーク的な因果構造が確認された. 次の展望として,推定されたネットワーク構造を活かして,株価などの将来変動を予測する手法の考案を目指している.その基礎として,従来の非線形予測手法にブートストラップ法を組み合わせることにより,少数データでも高い予測精度を維持する手法や,予測精度の予測など,リスクをなるべく軽減させる予測手法の検討を行っている.
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