研究概要 |
本研究では,これまで高校生を対象に明らかにした知見を大学生と中高齢者に発展させることを踏まえ,量的観点ではなく,質的観点に着目した運動経験と運動習慣の因果関係を検証することを目的とした.本年度に行った研究によって得られた知見は以下に示すとおりであった. 1.大学生における現在の運動習慣に及ぼす過去の運動経験の検証 【方法】201名の大学生(男子:170名,女子:31名)に対して,過去の運動経験(運動種目数と種目名,1週間あたりの平均運動実施日数,主観的運動量),現在の運動習慣(実施頻度,実施時間),過去の運動好意度,について回答を得た.【結果】過去の運動好意度を共変量に持つ因果構造分析の結果,過去の運動経験→現在の運動習慣が0.85(標準化偏回帰係数)であり,過去の運動好意度→現在の運動習慣が-0.17であった.カイ2乗検定の結果,週3日以上1日1時間以上の運動習慣とボールゲーム又はラケットバット系種目の運動経験との間に関連が認められた(χ2(1)=5.15,P<0.05).【結論】過去の運動経験は大学生の運動習慣に強い影響を及ぼすが,過去の運動好意度は運動習慣獲得に影響するとはいえない.また,週3日以上1日1時間以上の運動習慣獲得とボールゲーム又はラケットバット系種目の運動経験には関連がある. 2.運動習慣の獲得条件を探索するツールである分類2進木解析のサンプルサイズに対する頑健性の検討 【方法】標本はSuzuki and Nishijima(2006)で用いた2725ケースであった.測定項目は運動習慣の有無(2値),過去の運動経験(3項目)であった.2725のデータから無作為に1000,800,600,400,200,100の各データを抽出した.【結果】800と600のサンプルサイズを境に分岐順序が変化した.分岐値は1000であっても2725のサンプルサイズと異なる項日が確認された.【結論】分類2進木解析において,サンプルサイズが800を下回ると分岐項目,分岐順序の結果は頑健でなくなり,800以上であっても分岐値は頑健でない可能性がある. 3.高校生が運動習慣を獲得するために必要な過去の運動経験に関する性差の検討 【方法】高校生男子1580名,高校生女子1136名に対して現在の運動習慣(運動実施頻度,運動実施時間),過去の運動経験(運動種目数,スポーツ開始時期,1種目あたりの1週間平均運動時間)について回答を得た.【結果】男子標本を用いた決定木分析の結果,運動習慣ありの割合が最も高くなるルールは3種目以上の運動種目,かつ1種目あたりの1週間平均運動時間が8.3時間以上であった.女子標本を用いた分析でも,男子と全く同じルールが抽出された.【結論】高校生が運動習慣を獲得するために必要な過去の運動経験のルールには性差は認められない.
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