研究概要 |
ヒト言語への前適応となる重要な下位機能として自発的な発声制御、シンボル操作、外部物体の階層的操作などがあげられる。本研究では、社会性蓄齧歯類デグー(Oetodon degn)が、ヒトに特異的な音声言語コミュニケーションのモデル動物として適していることを示すため、階層的操作と発声制御について神経行動学的に検討することを目的とする。ほとんどの動物は自発的に発声を制御することができないが(状況依存的発声)、デグーは発声制御訓練により、自発的な発声を行うことが確認されている。そこでデグーの発声制御に関わる神経回路を解明するため、以下の実験を行った。 まず発声行動の解析を行った結果、20種類の状況依存的音声が確認された。発声の大部分は単音から成るが、オスの求愛歌とメスのmaternal call は複数の音要素から成り、個体により音の並べ方が異なることがわかった。このような個体差は、自発的な発声制御の可能性を示している。また道具使用訓練中に観察された自発的な発声は、デグーの日常的な発声レパートリーにはない音声であることが確認された。次に、麻酔下のデグー脳を電気刺激することにより、自発的な発声制御経路の同定を試みた。結果、発声中枢である中脳水道灰白質(PAG)の刺激では日常的に使用される音要素の大部分を誘発することができた。また自発的発声ができない種と異なり、複数の音声が誘発される部位が多くあることを確認した。PAGを制御する大脳辺縁系の帯状回ではネガティブな単音発声を誘発できたが、運動野での発声誘発はできなかった。いずれの領域でも、求愛歌のように複数の音要素の組み合わせから成る音声は誘発されなかった。以上の結果から、デグーの発声の大部分は状況依存的発声であるが,求愛歌など一部の音声は,それとは異なる制御を受けているなど、部分的に自発的な発声制御能力を持つことが示唆された。
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