反応時間の測定は、競技者のパフォーマンスを評価するために頻繁に用いられる項目の一つである。その脳内情報処理機構は、これまでに事象関連電位(ERP)を用い、座位による手指運動を中心に、課題の複雑性や速度、発揮張力に伴い運動関連領野の賦活程度が変化することが明らかにされてきた。しかしながら、実際のスポーツ場面で必要とされる全身運動ではほとんど検討がなされていない。本研究は、全身反応運動の遂行能力と、運動準備期の脳活動について、随伴陰性変動(CNV)および近赤外線分光法(NIRS)を用いてその運動制御機構を明らかにすることを目的とした。 反応課題は(1)色弁別課題、(2)位置弁別課題(一致条件)、(3)位置弁別課題(不一致条件)、(4)計数課題を設定した。その結果、課題間における反応時間の早さとCNVの振幅との関係は、必ずしも同様の傾向を示さなかった。また、課題遂行中の脳酸素動態は、これまでに報告されている結果と同様に前頭前野において酸化ヘモグロビン濃度は増加し、脱酸素化ヘモグロビン濃度は減少した。このことから、反応動作遂行前の運動準備期においては、前頭の運動関連領野の活動が亢進していることが確認された。しかしながら、課題間の比較においては、被験者の個人差も大きく一致した見解は得られなかった。さらに、何人かの被験者において、位置弁別課題の不一致条件で酸化ヘモグロビン濃度が減少し、脱酸素化ヘモグロビン濃度が増加するといった変化パターンを示した。このような酸化ヘモグロビン濃度の減少と脳神経活動の関係については明らかではないが、複数被験者のデータを加算平均する際には、慎重に利用しなければならない。
|