本研究の目的は、環境政策における経済的手法(価格インセンティブ政策)の有効性について、理論的、実証的に再検討することである。今年度は、新しい要因分解手法の確立・整備、過去のデータからの再検討を中心に行い、以下のような成果を得た。 1.環境政策における経済的手法の有効性を過去のデータから検証するための新しい手法・モデルを開発した。本手法(多時点カリブレーション分解分析)は、応用一般均衡分析を事後的分析に利用するという新しい手法であり、当手法を用いることで、比較的少ないデータから、産業間の相互依存関係や一般均衡効果を考慮した形で、過去の経済構造変化を要因別に分解することが可能になった。 2.次に、当手法を用いて、実際に1970年から1995年の日本経済を対象に、エネルギー消費、二酸化炭素排出量変化の要因分解を行った。分析結果は以下の通りであった。(1)各エネルギーの相対価格の変化を反映して、1970年代は石油から他のエネルギーへ、1980年代は逆の、エネルギー間価格代替関係が確認できる。(2)石油非使用型技術変化は主に1980年代に生じている。(3)エネルギー非使用型技術変化、加えて労働非使用型技術変化が、1970-1995年の我が国の二酸化炭素排出量を減少させる方向に寄与する一方で、経済成長要因が排出量増加に大きく寄与したため、結果、同期間の二酸化炭素排出量は大きく増加した。(4)エネルギー間価格代替要因は二酸化炭素排出量を増加させる方向に寄与している。(5)我が国においては、技術変化要因が二酸化炭素排出量の減少に大きく貢献している。
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