マウス6番染色体近位部には、レトロトランスポソン由来のインプリント遺伝子であるPEG10を含むインプリント遺伝子クラスターが存在する。マウスにおいて胎盤形成に必須であるPEG10の哺乳類ゲノムへの挿入時期やインプリントとの関連性を調べるため、有袋類のワラビー、単孔類のカモノハシの相同ゲノム領域を解析した。PEG10は、ワラビーには真獣類と高い相同性を示す形で存在するが、カモノハシには存在しないことがわかった。さらに、マウスPeg10周辺に存在する複数のインプリント遺伝子について、ワラビーのオルソログを解析した結果、ワラビーでインプリントを受けるのはPEG10のみであり、真獣類のように広いインプリント領域を構成していないことが明らかになった。それはDMR(differentially methylated region;親由来によりDNAメチル化状態が異なるゲノム領域でインプリント遺伝子の片親性発現に重要)の違いに由来し、真獣類では隣接する遺伝子のプロモーターまで広がっているのに対し、ワラビーでは厳密にPEG10の5'領域に限られていることを明らかにした。これらの結果は、外来配列やレトロトランスポゾンの挿入がインプリンティング領域の起源となりえること、すなわちこの領域のDMRによるインプリント制御機構は、PEG10レトロトランスポゾンの挿入に対するDNAメチル化による不活性化機構を起源としている可能性を提示している。本研究は有袋類における初めてのDMRの発見を報告したものであり、DNAメチル化によるインプリント制御機構が真獣類と有袋類の共通の起源をもつことを明らかにした。また、レトロトランスポゾンの挿入が新しいインプリント領域を形成することを明らかにし、インプリント領域の起源に重要な新知見を与えたものである。
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