色素性乾皮症バリアント群(XP-V)の原因遺伝子産物であるDNA polymeraseη(Polη)の欠損マウスは長期間の紫外線照射によりXP-V患者でみられる扁平上皮癌を主とした上皮性皮膚癌が高頻度に認められ、また、PolηのパラログであるDNA polymerase ι(Polι)欠損マウスでは肉腫をはじめ間質系腫瘍の発生頻度が上昇する傾向が認められることをすでに見いだしていたが、研究代表者らは、これらのポリメラーゼが発癌を抑制する仕組みを明らかにすることを目的として、以下に述べる知見を得た。 1.突然変異解析用のシャトルベクターを導入したトランスジェニックマウス(HITECマウス)の背中の皮膚に紫外線を一度照射し、一週間後、皮膚を採取してゲノム上に生じた突然変異頻度を調べたところ、Polη単独欠損およびPolηとPolιの二重欠損マウスの表皮部分では野生型と比べて突然変異頻度が上昇する結果を得た。また、Polι単独欠損では野生型と比べて顕著な違いは見られなかった。一方、真皮部分では表皮部分よりも突然変異頻度は低下するものの、表皮の場合と同じ傾向が見られた。Polηは表皮のみならず、真皮においても突然変異の抑制に大きな役割を果たしていると考えられる。 2.PolηやPolιが紫外線以外のDNA損傷に対しても発癌抑制に関与するのかを明らかにするため、酸化的DNA損傷の一つである8-オキソグアニンを誘発することが知られている臭素酸カリウムをマウス胚由来線維芽細胞に処理し、感受性を調べたところ、Polη、Polι単独欠損およびPolη-Polι二重欠損細胞は野生型と比べ耐性となることが明らかとなった。PolηとPolιは臭素酸カリウムに対する細胞応答においてアポトーシスの誘導に関与していることが考えられる。
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