近年、エキゾチックな超伝導体の代表格ともいえるBi系酸化物超伝導体において、ナノメートルレベルでの電子構造不均一性が注目されている。この不均一構造が何に由来しているのかを探るため、走査トンネル顕微鏡装置を用いて、STM像や、dI/dV、dI/dZスペクトルを原子分解能で可視化する必要がある。 そのような原子分解能を持っ究極的な観測には、極低温、超高真空中(-10乗torr台)での観測が必須であるが、本年度は新たにそれが可能となるSTM装置を、様々な要素技術の開発と改善により安定稼動させることを実現させた。具体的には、液体窒素冷却による安定した低温環境での単結晶ヘキ開、高電圧処理による探針の最適化、電子回路系のノイズの大幅低減、振動を極力抑制するコンディションの条件出し等を行った。 dI/dZスペクトル観測により、Bi系超伝導体において、ナノレベルこえた原子スケールでの実空間仕事関数(局所障壁高さ、LBH)分布の可視化に初めて成功した。LBH像は、界面における各原子位置での波動関数の染み出しの減衰係数に由来しており、その中にキャリア濃度の情報も含まれていると考えられる。観測されたLBH像から、原子構造と特有の変調構造に起因する縞状構造が観測されたが、超伝導ギャップの不均一性との関連性は、現時点では見出されていない。この結果は、超伝導不均一性がキャリア濃度に強く起因するものではないことを示唆するが、今後、多くの物質での観測との比較やデータの精査によって、より詳細な情報が得られると思われる。 これらの成果は日本物理学会第62回年次大会等において発表された。
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