研究概要 |
近年、銅酸化物超伝導体において、低温STM/STSによる興味深いナノメートルレベルでの電子構造が注目されている。これらの現象は、他の様々なエキゾチック超伝導体においても観測が期待されているが、清浄表面の得難さから、一部の劈開性の強い銅酸化物超伝導体に観測が限られている。 それらの状況を踏まえ、STM/STS観測に重大な影響を与えている表面におけるミクロな仕事関数(局所障壁高さ,LBH)について注目し、清浄表面を持つBi系銅酸化物超伝導体における、ナノスケールでのLBH分布の詳細な研究を本年度も引き続き行った。LBH実空分布においては、STM像と同様にBi原子に対応するとみられる明瞭な原子像が観測された。また、表面格子の変調構造と同周期でやや逆位相のLBH変調もみられた。それらの起源を解析し、LBH値は表面原子の充填密度に比例することを見出した。このことは、同じ金属でも配向の異なる面では、仕事関数が若干異なるというマクロな性質が、原子が数個の集合でも同じであることを示唆している。(これらの結果はJournal of Physical Society of Japan誌に掲載予定である。) 以上のようなSTM/STS観測やLBH観測の知見を生かし、本年度は銅酸化物と異なる、層状窒化物超伝導体KドープTiNClにおける低温STM/STS観測も試みた。本物質群は最高でTc=25Kを示し、非従来型のエキゾチック超伝導体の一つとしてその超伝導発現機構に大きな興味がもたれている。KドープTiNClにおけるSTM観測により、X線解析により報告されている格子定数とほぼ同一の周期構造を持つ、明瞭な原子像観測に初めて成功した。今後は、本研究課題での成果を生かし、高分解能STS観測,LBH像観測等により原子種の特定や電子状態の実空間分布観測等を行い、その詳細な物性解明を行っていく。
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