研究課題
生態系においてヒ素は様々な化学形態で存在し、その毒性や挙動は形態によって大きく異なることが知られている。近年の分析技術の進展により、海洋低次生物におけるヒ素化合物の分布・形態は明らかにされつつあるが、高次生物に関する研究はきわめて少ない。本研究グループは、これまでにイルカやアザラシ、アホウドリ等の海棲高次生物を調査し、ウミガメ類のヒ素濃度が相対的に高いことを明らかにした。本研究は、タイマイ(Eretmochelys imbricata)とアオウミガメ(Chelonia mydas)を対象に組織中のヒ素化合物を分析し、ヒ素の蓄積特性についてより詳細に解析した。沖縄県石垣島で捕獲されたタイマイとアオウミガメの組織(筋肉、肝臓、腎臓、心臓、脾臓、肺、胃、腸、眼球)を化学分析に供試した。総ヒ素濃度は、組織を酸分解した後、水素化物発生原子吸光光度計(HG-AAS)で測定した。また、ヒ素化合物は、組織からメタノール/水で抽出し、高速液体クロマトグラフィー/誘導結合プラズマ質量分析計(HPLC/ICP-MS)で定性・定量した。タイマイとアオウミガメにおける総ヒ素の組織分布を解析したところ、両種において筋肉が最も高濃度を示した。また、タイマイの組織中総ヒ素濃度はアオウミガメよりも有意に高く、低次生物に匹敵するレベルであった。組織中のヒ素化合物は、両種ともにアルセノベタインが主成分であった。興味深いことに、タイマイからはトリメチルアルシンオキサイドが検出された。以上のことから、タイマイは特異的なヒ素の蓄積・代謝機構をもつことが示唆された。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (1件)
Chemical Pollution and Environmental Changes
ページ: 201-204