申請者の研究の目標は、(1)人工林管理による流出水量の増加を定量化すること、また(2)その増加量を人工林管理にかかるコストと比較して、人工林管理による水資源確保の有効性と限界を明らかにすることである。 研究一年目である本年度は、(1)に関して、既存の研究結果をレビューすることから、人工林管理による流出水量の増加量について仮説を作成した。人工林管理によって1000本ha^<-1>立木密度が変化すると仮定した場合、年流出水量の増加は年降水量の5%程度となる、との仮説が得られた。この仮説は論文としてまとめられ、日本森林学会誌に受理された。またこの仮説の作成の基礎となる研究を行い、その成果を論文としてJournal of Hydrologyなど各誌に発表した。加えて、この仮説を検証するための蒸発散計測を開始し、順調にデータが取得されつつある。2007年度の夏には一年分のデータがそろい、仮説の検証が可能となる。 また(2)に関しては、申請書段階では福岡県の一流域を対象に、人工林管理の有効性について評価を行う予定であったが、より結果の有用性を高めるために、全国の流域を対象にして評価を行うよう、目標を上方修正した。国土交通省の資料における取水制限の記録をもとに、水資源が不足する可能性のある流域を同定した。また、すでに各流域における降水量データと水道料金データを用意できたので、(1)における仮説検証が終われば、ただちに人工林管理の経済効果を算定することができる状況となった。
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