ヒトの行動がどのように感染症流行に影響を与えるかについて、現存するデータを系統的に収集し、数理モデル及び統計モデルを利用して分析した。有用な天然痘及び肺ペストのデータについては、昨年より個別データベース構築を継続した。 論文報告をした特定研究成果として、まず潜伏期間を利用した統計モデルが挙げられる。発症時刻に基づいて伝播能力や感染時刻を推定する理論疫学研究を報告した。同研究手法の発展によって、通常は発症時刻しか記録されていない観察データを分析しやすい感染時刻データに変換する方法を提案した。また、最近データ採集が実施されたブタE型肝炎の血清調査結果を対象にして、本研究計画で提案した感染力推定モデルの応用事例を報告した。感染力が高く、流行がまん延している感染症について、どのように集団レベルでの感染力を推定できるかについて、データ特性に対応した手法を提案した。 インフルエンザの研究成果としては、プルシア(ドイツ)における1918年の流行データを数理モデルを用いて分析し、論文報告した。流行時刻によってインフルエンザ伝播が変化する様を検討する単純化モデルを構築し、流行途中にヒト行動がどのように変化したのかを客観的に分析・解釈する方法を提案した。スペイン風邪流行途中ではヒトの接触回避行動が伝播動態に大きく影響した可能性が高く、パンデミックインフルエンザ発生時には適切なヒトの危険回避行動が流行抑止対策になる可能性が示唆された。
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