本研究の主な目的は、科学技術政策やイノベーション振興政策の評価に資するため、特許データを用いてイノベーション活動に関する質的・量的な評価指標を開発することである。本研究では、日本特許庁から提供された特許統計データに加えて、OECDの作成する三極パテントファミリー・データを利用し、日本の特許制度変更が特許件数に与えた影響を補正する方法の開発を行った。日本国内の特許出願数は1988年に施行された改善多項制導入の影響を大きく受けており、以前から多項出願を運用してきた欧州や米国の出願人が、日本における改善多項制導入後直ちに多項出願を取り入れているのに対して、内国人出願人は徐々に請求項数を増加させていることが明らかになった。ただし、これらの動向は技術分野によって大きく異なり、医薬品やバイオ分野では内国人出願の請求項数が外国人出願人とほぼ同じになったのに対して、自動車やエレクトロニクス分野では未だに大きな差があることがわかった。このような請求項数を含む複数の指標について、経済産業研究所で実施した発明者サーベイの結果と組み合わせて、特許価値の構造を検討した。この結果、特許の価値には少なくとも「技術的価値」と「ビジネス上の価値」の2つの因子があり、請求項数は前者の因子との関係が深いことがわかった。これらの結果は、RIETI Discussion Paperで発表の予定である。また、EPO/OECD Workshop on patent statistics for policy decision making(1997年10月:ベニス)およびOECD Patent Manual Workshop(1998年3月:パリ)に参加し、欧米の研究者とこれらの情報に関する意見交換およびディスカッションを行った。
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