本研究の目的は、1960年代初頭以降本格化したリージョナルシアター運動に観察される、アメリカ文化の均質化過程について把握することである。本年度は主として、(1)リージョナルシアター運営に関する基礎財政データの収集・分析と、(2)リージョナルシアターにおける上演戯曲の収集・分析をおこなった。(1)については、フォード財団所蔵のサンプルデータ(1971-79年)を基礎とし、国内図書館における資料の閲覧・取り寄せ・収集によって補い、13の主要なリージョナルシアターに関する基礎的な財政データベースを作成した。個々のリージョナルシアターや年度によっては、会計報告書の細目が異なるケースが多いために、正確なデータを長期にわたって一貫して得ることは難しいことが判明したが、個別のリージョナルシアターの細部にわたる財政事情の把握や、1980年代までのリージョナルシアターの財政の実態についての概観をおこなうことができた。今後、観客動員数や上演回数等の既存の非財政データと組み合わせた分析が必要である。(2)については、Theatre Profiles所収の上演作品データ(1973-93年)をもとに、American Theatre掲載の上演スケジュールによって補い、1993-2006年のデータを延長・追加したデータベースを作成・整備した。更に、全米のリージョナルシアターにおいて最も頻繁に上演された作品である75作品については、その傾向を把握するために、戯曲・上演台本の収集・分析をすすめ、関連文献の収集・通読をおこなった。これらの作業の過程によって明らかになってきたのは、地元異存型の財政構造へと転換してゆく一方で、経営・作品面においてブロードウェイとの連携を強めるリージョナルシアターの姿であった。本年度は基礎データの収集・整備にかなりの時間を費やすこととなったが、このようなリージョナルシアター運動における中央-地方、営利-非営利の両セクター間の相互交渉のダイナミズムについて、更に理解を深めることが今後の課題である。
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