今年度は本研究の対象として、次世代デバイスでの利用が確実視されるSi(110)表面に着目した。 研究の第一段階として本表面の清浄化手法の確立を行った。この過程で、外部直流電場を印加することで清浄表面構造の制御が可能であることを発見した。この現象を利用すると、従来複雑であったSi(110)清浄表面の構造を非常によく定義された構造に変換することが可能であることを示した。これは今後のSi(110)研究の基盤技術となるものである。 さらに、今回新たに作成されたSi(110)清浄表面には、二つの有用な新規物性、 (1)広大な一次元構造(2)表面カイラリティ、が発現することがわかった。 (1):得られた清浄表面(16x2構造単一ドメイン)は、mmオーダーで均一な一次元構造を示すことがわかった。これほど広範囲で均一な一次元構造は極めて稀である。本構造は、上下を繰り返す一次元単原子ステップの集合体であり、量子細線等の一次元ナノ構造のテンプレートとして有用である。 (2):16x2単一ドメイン構造は、表面カイラリティを有し、カイラリティ(右系、左系)の制御も可能になることがわかった。固体表面上へのカイラリティの導入は、不斉分子の不斉合成反応の不均一触媒設計において重要となる。今回作成された構造は従来報告されているものよりも広範囲でよく定義されたカイラリティを示すため、有効な実用触媒として機能する可能性がある。 本発見は、今後Si(110)表面での不純物の微視的研究を含めた多岐の研究展開を可能とする。
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