最終年度となる平成十九年度は、前年度の文献調査および質的調査を踏まえて、「文明の衝突」論に対する本研究課題独自の見解をまとめ、学術雑誌等にその成果を公表した。 まず、「19世紀の人々はどのように音楽を聴いたのか?-「聴くこと」の考古学に向けて」(『フィルハーモニー』第79巻第7号)では、われわれ現代の日本人がクラシック音楽を受容する際にしばしば感じる独特の困難や隔たりの感覚は、芸術作品それ自体の性質に原因するというより、音楽の「聴き方」の歴史的変化によるところが大きいということを論じた。 一方、「テレビゲームの感性学に向けて」(『多摩美術大学研究紀要』第22号)では、これまで娯楽やサブカルチャーという枠組みの中でしか研究者の注目を集めてこなかったテレビゲームに光を当て、とりわけ画面のスクロールという要素を主題にしながら、それが現代人の感性的認識にきわめて強い、また普遍的な影響を及ぼしてきた(今もなお及ぼしつつある)ことを示した。 本研究課題によって、これまでしばしば自明視されてきた「異文化」と「自文化」の境界それ自体が批判的に問い直され、芸術と感性についての歴史的認識と理論的分析という両方の足場に立脚することで、「文明の衝突」という現代的課題を超克する道が示された。
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