2006年度は当初の計画に従い、1.先行研究の整理・批判的検討、2.刊行史料の分析、3.未刊行史料の収集と分析、を行った。なお、予定していだ地図データの収集は次年度に行うこととした。 1.中世南フランス都市史の研究動向を以下の三点から整理・検討した。(1)我が国おける研究状況を概観し、(2)主にイギリスとフランスの学界における集落形態分析の系譜を辿った。さらに、(3)中世南フランスに特徴的なバスティドと呼ばれる新設集落を巡る諸議論を紹介した。上記の内容は、拙稿「「都市」と「農村」のはざまで-中世南フランス都市史研究の一動向-」『年報都市史研究』14号、2006年、132-146頁に発表する機会を得た。 2.上述1の作業を踏まえて、刊行史料の分析を行った。具体的には、(1)13世紀後半の南フランスの政治経済的状況を整理し、(2)バスティド建設に関して、パレアージュ(領主間契約)と慣習法証書を分析し、建設のプロセスを具体的に示した。(3)Rolles Gasconを主な史料として用い、当時の南フランス地域において、バスティドの建設が統治に果たした役割を制度的側面を中心に検討した。この成果は『バスティード-都市と建築-』(山川出版社)中の一章「バスティードの歴史的背景」として公表予定である。 3.未刊行史料の網羅的収集と分析に関しては、イギリス国立文書館(the National Archives)が公開している史料のデジタルデータの収集に着手した。2006年度は分類番号SC8(Ancient Petitions)の1250-1307年までのギュイエンヌ公領に関する文書を収集・整理した。
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