本年度は「支配空間としての領邦」の成立という観点から、特にギュイエンヌ公領の貴族層や都市住民層、イングランド王、フランス王の三勢力の動向の解明を目指した。 当該時期のギュイエンヌ公領を扱う従来の研究は、英仏両王の封建関係を重視し、公領の貴族層や都市層によるフランス国王への上訴のみを分析の対象としていたため、フランス王権の伸長という点のみを強調しがちであった。このような偏りを相対化するために、フランス側の史料であるパルルマンの判決抄録Olimsを利用するとともに、公領住民がイングランド王に請願した記録を分析に加えた。その際にイギリス国立公文書館(the National Archives)が公開している手稿史料のデジタルデータ、特に分類番号SC8(Ancient Petitions)を収集・分析した。 さらにイングランド側の史料として、Roles Gasconsとともに、13世紀末に作成されたイングランド王政府のHouseholdの一部署であるWardrobe(納戸部)文書を用いて、エドワード1世のギュイエンヌ公領の巡幸時における現地の貴族層や都市住民層との接触の様相を分析した。 また、ギュイエンヌ公領に支配拠点として多数建設された新設都市であるバスティドの建設過程と都市空間の両面から具体的に検討した。加えて、都市建設の際に、あるいは都市行政の一環として行われた測量活動にっいて、その担い手と活動の背景を考察した。これらの成果は、拙稿「都市を測る-中世南フランスにおける測量活動-」『中世都市を考える』(東京大学出版会、2008年刊行予定)および、「バスティード -中世南フランスの新設都市-」吉田伸之・伊藤毅編『シリーズ・伝統都市 1都市のイデア』(東京大学出版会、2008年刊行予定)で公表予定である。
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