本年は、文体論の「表出性」について、特にシャルル・バイイの理論を中心に研究した。一次資料として、バイイの文体論に関する著作(Traite de stylistique francaiseなど)、また言語活動と表現の関係とを扱った著作(Le langage et la vieなど)を、二次資料として、現在フランスを中心に展開しているバイイ理論の再評価に関する著作を対象とした。次いで、バイイを中心とするジュネーヴ学派の文体論に関する文献の調査で得られた結果と、現在の文体論における類似概念の検討を開始した。具体的には、ジェラール・ジュネットやジャン=マリー・シェフェールが、ネルソン・グッドマンから取り入れた「例示化」という概念である。ジャンル論については、上記のジュネットやシェフェールの著作における文体概念とジャンル概念とを比較して、文学における個(=文体)と類(=ジャンル)の相関関係について検討した。文献資料調査は、国内の大学、研究機関のみならず、2006年10月にはフランス国立図書館にて、閲覧、複写による収集を行った。とりわけ、同図書館にはフランス語だけでなく英語の文学理論関連の雑誌コレクションが充実しており、文体論、文学ジャンル論の現在の研究状況を把握することができた。これらの手段で得られた書誌情報は、パソコンに入力されてデータベース化された。また、10月に渡仏した際には、「レーモン・クノーと身体」と題された国際シンポジウム(ナンシー)に参加し、この作家における身体表象という主題を、詩と小説というふたつの文学ジャンルにまたがって、文体論的観点から検討する報告を行った。
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