本研究課題は、時間論・自由論・心の哲学(philosophy of mind)の三つの観点から捉えることができる。平成19年度は、様相概念(必然性・可能性といった概念)の分析を中心として各観点からの研究を進め、その個別的な成果を、論文集や研究会等において発表した。 時間論については、所属機関である山口大学時間学研究所の主催によって、さまざまな分野の研究者ともに複数回にわたるセミナー・講演会を行なった。理系・文系の垣根を越えた時間研究の成果を学ぶことで、自身の研究をより広い視野のもとで再検討することが可能となった。また、時間論に関する多数の著作を精読・検討し、時間の分岐的構造(様相的な樹形図構造)と成果性についての研究を推し進めた。そのさい、H.プライスによる物理学の時間対照的分析や、D.ルイスによる反事実条件文の分析を、重要な参照研究とした。 自由論と心の哲学については、とくに行為・思考の様相性に注目するかたちで研究を発展させ、その主要な成果の一つを論文として発表した。(「無知の発見」、『知識構造科学の創造ヘ向けての基礎研究』、日本大学精神文化研究所、2008)。本稿では、知識論の文脈において上記の様相性が染める位置を、無知の様相的確保という視点から分析している。そらに本稿では、デカルト以来の懐疑論的問題についても親クワイン的な返答を試みるとともに、最終節ではウィトゲンシュタイン晩年の著作『確実性の問題』を取り上げ、トークン的知識の確保に関する独自の考察を行なった。
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