本研究初年度の計画に基づき、平成18年度はふたつの基礎作業をおこなった。まずは、本研究を支える理論的核となる<パフォーマティヴィティ>概念をジュディス・バトラーらの著作を手掛かりにして整理、検討した(現在、この作業の成果を発表するための論文を準備中)。次いで、もうひとつの基礎作業としておこなったのは、アメリカ写真史からデモクラシーの問題系を洗い直し研究前史を概観する仕事である。この作業を遂行するため、研究代表者はニューヨーク州ロチェスターのジョージ・イーストマン・ハウス国際写真美術館のアーカイヴに直接赴き資料収集、デモクラシーの価値にかかわる初期アメリカ写真のプリントや一次資料を中心に(西部開拓期の写真やルイス・ハインらの仕事など)調査した。 平成18年度の研究計画は、とりわけ本研究の前史にあたる部分に関して、デモクラシーに関わるアメリカ近代写真の胎動期の問題群を分類してグルーピングし、再検討することを目指していた。この目標には上記の一次資料調査のほか、アメリカにおける写真史の構築と美術館制度の力学を解析することが含まれていた。この点に関して、研究代表者は近代写真の父アルフレッド・スティーグリッツの芸術写真観を分析することによって、アメリカという固有の磁場における写真メディアの位置づけを確認することができた(その成果は「ストレート・フォトグラフィの陥穽-アルフレッド・スティーグリッツの芸術写真観」にまとめ、発表済み)。アメリカにおける<ストレート・フォトグラフィ>という新しい価値の発見に絡んで、写真メディアにおける主体性の根源が手から眼へとシフトしたことを論証したこの考察によって、パフォーマティヴィティ概念の身体性を考察するひとつの手掛かりを引き出すことができた。
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