1570年代から1630年頃までの約半世紀の間にイタリアを訪れた北方画家に関する情報を17世紀の美術文献から収集し、分析を加えることが本研究の課題である。本年度は、ファン・マンデルの著作やヨアヒム・フォン・ザンドラルトの『ドイツのアカデミー』を中心に読解作業を行なうとともに、関連する芸術家や時代状況についての研究をすすめた。 ファン・マンデルの『画家の書』については、ノエやミーデマらの重要な二次文献も含め、フ検討が一段落したところである。北方の画人伝部分の一部を東北大学の尾崎彰宏教授と共訳したものが現在印刷中であるほか、伝記のタイトル(対象)にされている画家と、その伝記に登場するほかの人物たちとの関係性に着目してテクストを分析した研究ノートを『西洋美術研究』13号に執筆し、これも現在編集作業中である。こうした分析の結果、ファン・マンデルが伝える多くの情報のなかから、本研究と直接的に関わる興味深い部分を抜き出すととができた。例えば、イタリアでの北方画家の活躍のあり方や、風景画の評価、北方の版画家とイタリアの版画家に対する評価の差が顕著に表れている部分などである。これらについては、さらにイタリア美術受容に話を絞って、いずれ論文の形で成果をまとめることを考えている。現在はザンドラルトの『ドイツのアカデミー』(1675年)の読解を続行中である。 またオランダでの調査では、17世紀の市誌や聖ルカ組合の文書記録などを収集し、これまでのファン・マンデル研究の批判などに役立てた。そのほか、ホルツィウスがイタリア旅行直前に制作した《ミダス王の審判》についての論文や、17世紀オランダにおける絵画取引の諸相について扱った論文なども発表した。
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