本研究の目的は、一般に17世紀オランダ絵画の黄金時代の先がけと見なされる、1570年代から1630年頃までの約半世紀の北方画家のイタリア美術受容について、とくに17世紀の美術文献に見られる記述を収集し、検討を加えることである。今年度は昨年度に引き続き、カーレル・ファン・マンデル『画家の書(絵画の書)』の読解、およびザンドラルトの『ドイツのアカデミー』、コルネリス・ド・ビー『黄金のキャビネット』に見られる関連記述の収集・分析を進めた。本来目標としていた網羅的な資料集の作成はまだ終了していないが、興味深い知見を集め、今後の見通しをたてることができた。 ファン・マンデルの『画家の書』に関しては、昨年度より行なっている翻訳作業もさらに続行させた([原典資料翻訳]カーレル・ファン・マンデル『絵画の書』(1604)(九)として現在入稿済み)。 また、プラド美術館において、メイフォーヘルという画家の作品を実見調査した。ネーデルラント出身でローマで没したこの画家は、ザンドラルトの『ドイツのアカデミー』のなかに記述があり、興味深い作品が彼の手に帰されている。この調査の結果、アトリビューションについても再検討する必要が感じられたが、こうした問題については今後さらに他作品との比較検討なども経て公にしたいと考えている。 研究実施計画のうち、バリオーネ等イタリアの美術文献の検討については資料の収集と一部の分析は行ったが、作業を予定通りに終えられなかったが、ネーデルラント、ドイツの美術文献にみられる記録との比較は有益であることが予想されるため、今後継続して作業に当たりたい。
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