本年度は、研究の始発・構築期と位置付け、本研究課題の短期的目標・中長期的目標とを区分しつつ、研究環境の構築と基礎的な資料の収集・分析を行った。具体的には、(1)本研究課題の期間内に明らかにすべき課題として、植民地期台湾で発行されていた週刊新聞『新高新報』が、とくに1930〜33年の時期に積極的に掲載・言及していた、新聞記者や新聞業界にかんする自己言及的な記事を抽出し、記事目録を作成した。当該の時期は、『大阪朝日新聞』『大阪毎日新聞』の台湾進出、台湾人資本の『台湾新民報』日刊化など、台湾内のメディア状況の重要な転換点として位置づけることができる。さらに、当時のメガ・メディアである『大朝』『大毎』両紙の台湾への注目が象徴するように、経済不況による広告収入の逓減という状況の中で、広く日本語の新聞そのものが、読者と広告主の獲得を目指す激しい競争にさらされていた。そのため、単に台湾内部のメディアだけでなく、(2)同時期の日本語で書かれた新聞論・新聞学にかかわる資料を集積し、読み込んでいくことで、メディアとしての新聞媒体の多様性が、同時代において、いかなる言説として把握されていたかを確認した。この作業は、決定的な変質を遂げつつあった当時のメディア・ジャーナリズムについて、立体的に考察していくための足がかりとなるだろう。 本年度は、当初、台湾への調査出張を予定していたが、まずは足場固めを優先し、課題を明確にした上で、次年度に調査を実施することとした。ただし、本研究課題の採択前(8月)には、韓国・ソウル特別市において、当地での植民地期日本語新聞の所蔵調査を行っている。
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