本課題の最終年度である平成19年度は、前年度からひきつづいて研究環境の整備を図る他、具体的な成果の公表を見据え、積極的に資料の集積を行い、特に台湾で発行されていた日本語週刊新聞の記事分析・データベース化を進めた。平成19年8月には、植民地期台湾の日本語文学を専攻する和泉司氏(慶應義塾大学日本語・日本文化教育センター非常勤講師)を研究協力者として委嘱、台湾・台北に出張し、国立中央図書館台湾分館・国立台湾大学図書館での調査を行い、資料の補足と週刊新聞の紙面分析に必要な情報収集につとめた。その成果は、「対抗的公共圏の言説編制-『新高新報』日文欄をめぐって-」(『大妻女子大学紀要-文系-』40号)にとりまとめた。また、本課題で集積した資料体のうち、1920年代〜30年代の新聞学・広告論にかかわるものは、関連する研究課題である「改造社を中心とする20世紀日本のジャーナリズムと知的言説をめぐる総合的研究」(基盤研究(C)、課題番号17520126、研究代表者:松村友視慶應義塾大学教授)における研究の相互乗り入れ的な進展にも、積極的に活用した。 この他、植民地時代の朝鮮半島で発刊されていた日本語逐次刊行物について、大妻女子大学文学部草稿・テキスト研究所の調査研究費を活用し、韓国・ソウル市に出張、ソウル大学中央図書館での調査を行った(平成20年2月)。当時の半島各地に存在していた新聞の所蔵状況についてはいまだ明確な成果は出ていないが、1930年前後の朝鮮・満州で発行されていた逐次刊行物にかかわる二次的な資料を研究資料として収集することができた。東京を中心とする情報ネットワークとは異なる、旧植民地地域独自の日本語言説の生産・流通・受容のサイクルを考えるうえで、今後、さらなる発展的な研究に向けた重要な足がかりを作ることができたと考えている。
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