本年度は、フィンランド民族文化の代表とされる叙事詩『カレワラ(Kalevala)』解釈を中心としたフィンランドの民族文化研究が、第二次世界大戦を境にいかに変遷し、その変容が政治といかなる関係を構築したのかを明らかにするために、1941年6月に勃発した二度目の対ソ戦争時から1949年に開催された新カレワラ百周年記念祭までのカレワラ解釈の変遷に注目し、関係資料等を収集・分析を行った。特に、1917年のフィンランド独立以降、カレワラを歴史として解釈し、第二次世界大戦期に軍部との結びつきがあった歴史学者ヤルマリ・ヤーッコラのカレワラ研究と、戦時中に軍部のプロパガンダ活動に従事しながら、カレワラの「普遍性」を追究し、戦後フィンランドを代表する民俗学者となったマルッティ・ハーヴィオのカレワラ研究の変遷を考察し、比較した。また、近年、フィンランドのナショナリズムと文化の関係に注目した研究が多く出版されていることから、それらの研究の収集及び分析を行うと同時に、ヨーロッパに限らず世界における民族文化と政治との関係についての文献の収集を行い、フィンランドの事例と比較した。12月には、本研究の概要を国際関係史学会(CHIR)の第3回研究会で発表し、出席者から助言をいただいた。 3月にヘルシンキで行った調査では、毎年2月28日に開催している国家行事のカレワラ祭に関する世論や政治家の言説の変遷を考察するため、1949年の新カレワラ百周年記念祭に関する新聞・雑誌記事を、ヘルシンキ大学図書館及びフィンランド文学協会文学資料館にて収集した。これらの資料は、以前収集した1935年の古カレワラ百周年記念祭との言説比較に用いる予定である。また、歴史学者ヤルマリ・ヤーッコラの遺族リリアン・ティムグレン=オッテリン氏へのインタビューを行い、資料から窺うことができない個人としての研究者像について伺った。
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