本年度は主に、坪内関連の書籍の確認、及び20世紀初頭のイギリスにおけるパジェントブームと旅行業の関連について調べた。特に後者の成果は「エドワード朝歴史パジェント-<フォークなるもの>を売る」というタイトルの口頭発表として、日本学術振興会「人文・社会科学振興のためのプロジェクト」研究領域V-1「伝統と越境--とどまる力と越え行く流れのインタラクション」第2グループ「越境と多文化」「『声』とモダニティの転移--民衆・文化・共同体」(於:立教大学)で発表済みであり、後に報告書として出版される予定である。 現時点での坪内研究では坪内とパジェントとの関連は坪内個人の資質によるもの、ないしはロシア革命時の祝祭劇に触発されたもの、という見方が多く、同時代の英米パジェントとの関連性は詳しく見られていない。坪内自身が英文学者であったことや、英文学という学問とパジェントブームとの英米における密接なかかわり、などをかんがみると、むしろ英米文学よりのアプローチが必要になってくるのではないかと考えられる。特に坪内関連の調査においては、洋楽と日本舞踊の接点であった宝塚歌劇に対する坪内適遥の深い関心に、彼のパジェントに対する関心と通じるものがあるのではないか、ということがわかった。この点に関しては平成19-20年度の課題としたい。 2月以降、10日ほど英ブラッドフォードを訪れ、1931年のパジェントとその商業性について調べた。ここで浮き彫りになったのは、30年代初頭のイギリスのパジェントにおいて商業性とコミュニティ希求の欲望が相反することなく共存していた事態である。これは坪内のもっていたパジェント理解とはかなり異なった実態であり、現在、坪内のパジェント理解とイギリスにおけるパジェントの実情のずれを軸に論考を進めている。
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