女性の記号とされるサリーを身に纏うインドのヒジュラは、性とジェンダーの観点から多様な意味付与が重ねられ、今日のマスメディアでは、トランスジェンダー、あるいは「第三のジェンダー」を指す標章として普及する。本研究では、汎インド的現象としてヒジュラを捉えるマスメディアの流れに反して、インド、グジャラート州におけるフィールドワークの実践を通じて、固有な場所と結びついたヒジュラとしての生のあり方、および、その土地と結びついた歴史をもつヒジュラの共同体形成に関する考察を行うことを目的とした。 平成19年度は、7月26日から8月26日まで(30泊32日間)、インド、グジャラート州に滞在し、マヘサナ県ベチャラジ郡にあるバフチャラ女神寺院に集うヒジュラと生活を共にしたフィールドワークを実施した。今回の調査では、ベチャラジ郡の行政とバフチャラ女神寺院の管理を司る長官の協力のもと、バフチャラ女神寺院に関する歴史的文献の収集を行った。そして、ヒジュラとのフィールドワークを実施するなかで、バフチャラ女神寺院のある土地とヒジュラの歴史に詳しい人物と接触をもつことができた。また、ヒジュラの仲間入りを志願する者とその親族、そしてヒジュラとして生きる者との交渉の様を見ることができた。その交渉時に発せられた数々の言葉と、女神寺院に関する歴史的記述と記憶とを関連づける分析を行うことによって、ヒジュラの纏うサリーは女装でなく、女神そのものを意味する「模倣」という結論にたどり着いた。その成果は、論文「『異装』が意味するもの-インド、グジャラート州におけるヒジュラの衣装と模倣に関する考察-」(『非文字資料研究の可能性-若手研究者研究成果論文集-』神奈川大学21世紀COEプログラム研究推進会議、pp.153-164、2008年3月)にまとめた。
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