平成18年度は、20世紀の政治小説を中心に、特に1970年代の独裁者小説、具体的にはガルシア・マルケスの『族長の秋』、アウグスト・ロア・バストスの『至高の我』、アレホ・カルペンティエールの『方法再説』に焦点をあてて、これを中心に研究を進めた。独裁体制の歴史的事実をふまえつつ、作品自体の先行研究を土台に三作品を綿密に分析し、研究論文を完成させた。18年6月には、研究成果を日本ラテンアメリカ学会で発表し、さらにこれを土台にした論文を学術雑誌JALLAに投稿、すでに掲載が内定している。18年8月には資料収集を兼ねて、コロンビア、メキシコに滞在し、アンデスラテンアメリカ文学学会で成果を発表、メキシコのメトロポリタン大学でも講演を行った。10〜12月には、独裁への抵抗を扱ったベネズエラ小説を二作、ホセ・ビセンテ・アブレウの『SNという者』、ミゲル・オテロ・シルバの『オノリオの死』を取り上げ、ジャーナリズム的手法とフィクションの融合という観点から比較研究した。これについては12月に論文としてまとめ終え、3月にベネズエラの文学研究雑誌Actualの61号に掲載された。3月には一ヶ月近くメキシコ・シティーに滞在し、研究資料の収集と現地研究者との情報交換に努めた。なかでも、現代メキシコを代表する作家セルビオ・ピトルや、ベネズエラの小説家エドノディオ・キンテーロと親交を深め、貴重な情報を引き出すことができたことは今後の研究に大きな意味を持つだろう。平成19年度を見据えて、1990年以降の作家についても資料を収集し、トマス・エロイ・マルティネス、セルビオ・ラミレスといった作家について貴重な資料を入手することができた。
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