本年度は五四新文化運動後の中国文学における〈自己表現〉性の研究において、以下のような実績をあげることができた。 (1)研究成果の発表:これまでの一連の五四新文化運動後新文学研究の一部として、11.研究発表に記した論文、「郁達夫における大正教養主義の受容-自我をめぐる思考の脈絡」を公表することができた。この論文は、新文学の一方の旗手であった郁達夫が、大正日本の教養主義からいかなる影響を受けたかを実証的に検証し、同時に大正教養主義における自我をめぐる思考の脈絡の存在を明らかにしたものである。 さらに続稿を準備しており、継続して公表して行きたい。 (2)書籍の購入:本年度も、科学研究費補助金を利用して、五四新文化運動後の中国文学を研究する上で必要となる研究書、工具書(参考図書)、資料を購入することができた。ことに、『鄭振鐸全集』『田漢全集』など、この時期に活躍した中心的作家の全集、及び『新青年』『新潮』『小説月報』『文学週報』『創造季刊』など、1920年代の中心的雑誌の復刻を購入できたことは大きい。 (3)資料の調査・収集:二月末に中国の各地の図書館で、資料の調査・収集を行なった。主に上海図書館、復旦大学図書館、中国海洋大学図書館で行なった資料調査では、五四時期の書籍やそれらを対象とする研究書・論文を収集することができた。また同時に、新文学の作家たちが数多くの足跡を残した、上海、天津、青島において、各地の作家故居を訪れ、地理的な調査をするとともに、現地の出版社が出した関連書籍を収集することができた。
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