本研究の目的は、第一に、カール・ヤスパースの「コミュニケーション」論における<規範意識>形成過程に注目し、法的正当化論としての意義を明らかにすること、第二に、法実践における法的決定/法解釈の正当化論として、「コミュニケーション」論の<規範意識>形成過程がもつ可能性を展望することである。 そこで、上記目標を達成するために、本年度は以下のような研究実績を積み重ねてきた。まず、「コミュニケーション」論をハンナ・アーレントの「政治的判断力」論との思想関係から照射し、<規範意識>形成過程としての「コミュニケーション」論にはいかなる意義があるのか、この点を比較思想史的に把握しようと試みた。そこで、その具体策として、本研究では「政治的判断力」論をめぐるアーレントの諸論文や書簡の精読を重点的に進めることによって、ヤスパースの「コミュニケーション」論がもつ法的正当化論としての可能性を展望するよう努めた。また、他方では、『ハンナ・アーレント伝』(荒川幾男ほか訳、晶文社、1999)の著者として広く知られている、エリザベス・ヤング=ブルーエルのヤスパースにかんする論文E.Young-Bruehl.Freedom and Karl Jaspers's Philosophy Yale Univ.Press 1981.を入手し、翻訳書として公刊するための準備作業にも着手した。 そして、二年に及ぶ本研究の中間考察として、ヤスパースの「コミュニケーション」論を現代法哲学上の重要な問題として再構成し、日本法哲学会の公募報告へとエントリーした。その結果、理事会での審査を経て、平成十九年十一月に開催が予定されている学術大会にて本研究成果の一部を発信する機会を得ることができた。
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