本研究の目的は、ヤスパースの「コミュニケーション」論における<規範意識>形成過程のなかに、法的正当化理論としていかなる現代的意義があるのかを探ることである。 研究を通じて得られた具体的成果は、ヤスパースの「コミュニケーション」においては、当事者間において<規範意識>が形成されてくる局面と<規範意識>が当事者間において共有されてくる局面とが表裏一体の構造を成しているということであった。そこで、こうした成果をもとにして、北海道大学審査博士(法学)学位論文(平成18年度9月25日授与)を補筆し、『北大法学論集』58巻1号〜6号誌上で連載することにより、その成果の発信に努めた。また、そのエッセンスとでも言うべき部分については、2007年度日本法哲学会学術大会(2007年11月10日、於:同志社大学)において、「価値相対主義問題にかんする一考察-ウェーバーからヤスパースへ」という題目で報告し、学界から一定の反響と評価を獲得するに至った。 今後の課題は、アーレントにおける「政治的判断力」論との関係からヤスパースの「コミュニケーション」論を更に掘り下げていくことであるが、こうした課題が生じてきたこと自体、本研究の成果であるといえる。というのも、本研究のように法哲学史や法思想史の再検討を通じて現代法哲学のアポリアとでもいうべき規範的正義論のあり方を吟味し、積極的な問題提起を行っている論考は殆ど例が無く、今後の法哲学における思想史研究が持つであろう可能性については、十分にこれを示し得たと考えられるからである。
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