本研究は個人的なリスクに対応する仕組みである社会保障政策という枠組みを超えて、育児による経済的な負担を軽減する政策的手法を抽出すると同時に、政策間の有機的な連携をはかるという新たな視点基づき、効率的かつ実効的な育児支援政策を確立するための提言を行うと同時に、これらの政策を法的側面から規範的に根拠づけることを試みるものである。 本年度は、従前の研究により収集したドイツの資料、ならびに、論文の検討により得られた成果を基に、これらをわが国の制度状況と比較検討し、わが国の少子化対策を「家族負担調整」ならびに「家族履行調整」という法概念に基づいて再度整理・検討した。その結果明らかになったのは、わが国での現行法制度上での子育てにかかる経済的支援が、もっぱら、ドイツでいうところの「家族負担調整」的なもので、子育てによる家族特有の経済的負担を補うという観点に立脚するものであること、負担調整あたってドイツでは、子育てをする社会構成員としない構成員の負担の公平という観点から調整を行うのに対して、わが国では、あくまでも損失補償的な観点から調整を行うため、例えば、公的年金保険制度での保険料免除の適用において顕著であるように、同じ子育てをする被保険者であっても、制度上損失が生じないと見なされるものには補償が行われない結果、制度内部で子育てをする者に対する取り扱いの区別が生じており、子育てに対する一貫した政策形成が実現していないことが明らかになった。また賦課方式を採用する社会保険制度のように、次世代の存在を前提としたシステムでは、制度を維持存続するためにも、世代間の負担の公平をはかることが求められるが、ドイツで行われている子育ての効用を政策の中で積極的に評価する方法は、理論構成ならびにその具体的制度設計という点で、わが国にとっても適用可能性のある有用な解決策であると考えられることを明らかにした。
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