本研究はヨーロッパを対象として、政治エリート・統治連合と社会運動の関連性を通じて、国家の統治・政治構造のとく調整を明らかにしようと試みるのである。社会運動は従来において社会学的伝統の強い影響下にあり、ここから特定時代の国家体制への影響と政治エリートの反応についての関心を十分に払ってこなかった点を補完することを目的としている。 近年において、政治学の領域で政治的機会構造論を用いてのアプローチが注目されていた(代表例としてS.タローの研究)。しかし、これも社会運動の生起に関心を集中させており、社会運動・政治的抗議の対象となる政治エリートを主体的なアクターとして捉えるには至っていなかった。 本研究では、これに対し政治過程論を中心としたアプローチ、具体的には「政治エリート・統治連合」を社会運動に対置させることで、全般的な<国家-社会関係>を把握しようとしている。具体的なイヴェントを1968年に絞り、社会運動としての学生組織・労働組合、また統治連合としてはフランスのド・ゴール大統領およびポンピドゥー首相を中心とする執政府(コア・エグゼキュティブ)としている。両者間の相互応答の変移の特徴を把握し、ひいては統治構造の問題性・限界を明らかにし、新しい社会運動論についての理論的貢献を目指すものである。 この過程においては、主に4つの基礎的関係が確認された。(1)抗議運動の形態・様式は混合的であるという点である。これは、C.ティリーが提唱した抗議運動の「アルカイズム」と「近代性」の混合という指摘を裏付けるものである。(2)抗議運動は、国家の統治構造そのものに影響を与えるのではなく、むしろこれを強化する傾向を生み出すこと、(3)アクターの認識は所属集団のバイアスに規定される、(4)抗議運動の興亡において「ミドルマン」的機能を果たす知識人が大きな影響力を持っているという点である。以上の視点をもとに、引き続きH19年度において実証分析を進めるものとする。
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