研究概要 |
本年度の研究成果は以下のように要約できる。 1.本年度は、マーシャル的外部経済をともなう独占的競争型貿易モデルの研究において重要な成果が得られた。本研究は、産業レベルの費用逓減現象をもたらすマーシャル的外部経済を独占的競争型二国一般均衡モデルに導入し、自由貿易が各国の生産構造や経済厚生に与える効果を分析したものである。同質財モデルの揚合と同様に、マーシャル的外部経済下の差別化財生産は自由貿易下において大国に集中する傾向があることが本分析から確認された。また、財の多様性に対する消費者の選好を考慮すると、完全な貿易自由化は必ずしも最善の選択ではなく、特に、財の多様性に対する消費者の選好が強い場合には、差別化財部門に限定された貿易自由化の方が完全な貿易自由化よりも各国の経済厚生にとって望ましい可能性があることが示された。本研究の成果は"A Monopolistic Competition Model of International Trade with External Economies of Scale" (North American Journal of Economics and Finance, Vol.18, Issue 2, pp,77-91, 2007)として結実している。 2.本年度のもう一つの主要な研究成果として、マーシャル的外部経済をともなう寡占型貿易モデルの研究があげられる。本研究は、マーシャル的外部経済を導入した寡占型二国一般均衡モデルにおいて、自由貿易が各国の生産構造や経済厚生に与える効果を分析したものである。本研究では、寡占企業の数が少なく、したがって、企業の市場支配力が十分大きい場合には、マーシャル的外部経済に基づく大国の生産性優位に反して小国が不完全競争財の輸出国になる可能性が示された。さらに本研究では、不完全競争財の輸出国では貿易によって必ず経済厚生が改善されるのに対して、輸入国では経済厚生が悪化する可能性があることが明らかにされた。これらの結果は、貿易自由化の効果を予測する上で、企業数のような産業構造を表すパラメーターが極めて重要な役割を果たすことを示唆している。本研究の成果は、"A Two-Country Model of Oligopolistic Trade with External Economies of Scale" (joint with K. Fujiwara and M. Tawada, mimeograph,2006)として纏められている。 以上が本年度の主要な研究成果である。また、上記に加えて、本年度はリカード的な比較優位構造を持つ寡占型・独占的競争型貿易モデルにおける国際分業論的考察も行った。
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