本研究代表者の2004年度の研究実績の中には、「韓国的ディスカウントストアの本質とその業態変容プロセス-(株)新世界のEマートを事例として-」という論文が存在する。その中で、技術的に遅れている発展途上国の小売企業がどのようにグローバル化していくのか、また、地元企業がグローバル・リテーラーに対抗してどのように競争的優位性を獲得できるのかに関する新しいインプリケーションが提示された。その分析内容をもとに、仏語で再構成した論文が"Le developpement et l' innovation du magasin discount coreen"であり、2006年度の最初の研究実績である。 第2に、「韓国における生鮮食料品流通システム-大型小売店の成長と卸売市場の機能との関係を中心として-」の論文では、大型総合量販店のオペレーションと卸売市場の機能との対立という視点から、産地直取引を基本理念とする農協流通が韓国の生鮮食料品業界で成長せざるを得なかった理由について分析を行なった。また、こういった韓国の生鮮食料品流通を巡る変化は、従来の商業論の枠組みからどう説明されうるのかについても考察しながら、韓国の卸売市場の機能の変化とそのあり方が問い直されている。 最後に、"Global Retailing and Withdrawal of Global Retailers in Korea : Issues from the case of Carrefour and Wal-Mart"という論文では、カルフール及びウォルマートの韓国からの撤退やイケアの日本市場への再進出のケースから、これまで等閑視されたグローバル・リテーラーの撤退問題に着目し、参入行動と撤退問題との関係性を解明しようとした。それは小売国際化のメカニズムを明らかにするうえで非常に重要な課題である。撤退問題が参入行動に関わっているのであれば、参入→現地適応化→撤退→参入という小売国際化の循環的サイクルが延々と続いてとめどもなく国際化を競う競争へとグローバル・リテーラーを駆り立てていくという仮説が設定できるだろう。 平成19年度の研究課題は、日本市場に再び参入したイケアをケースとして取り上げながら、流通グローバリゼーションにおける参入-撤退問題の関係性をより深く検討することはもちろん、今後の日本の家具インテリア市場に家具インテリア・ビジネスモデルとしてのイケアが与えるインパクトについて分析してみたい。その前に、家具産業全体の生産・流通構造分析という試みがなお課題として残されている。欧米とは異なる日本型家具生産・流通システムの特殊性はどこにあるかを明らかにするとともに、スウェーデン型家具生産・流通システムの日本市場への移転可能性についても検討すべきであろう。
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