本研究の目的は、聴覚障害児家庭・ろう学校幼稚部を対象に手話言語獲得過程やその援助方略等について調査し、家庭や教育現場に聴覚障害児の手話及び日本語のリテラシーの発達的基盤を育むための条件整備に関わる有用な資料を提供することである。 1.聴覚障害児と対象への注意を共有して相互交渉するための健聴母親の行動分析 1歳前後の聴覚障害児との共同注意において、健聴母親が子どもの視線方向にどれほど注意を向けるのか、子ども視覚的注意をどのように調整するか、注視対象についてどのように視覚的に発信するのか等の行動を観察・分析した。時点での結果は、(1)子どもに注意喚起する直前で母親が子どもの視覚的注意を確認する傾向が顕著である点、(2)どもの自発的な注視対象に追従して母親が注意喚起をした場合子どもは母親からの視覚的発信をみる傾向が高い点、(3)子どもの視覚的注意を一方的に転換した場合子どもは母親からの視覚的発信をみない傾向が高い点である。 2.聴覚障害児の共同注意行動の変化に伴う聾者母親の視覚的調整方略の検討 聾者家庭における2歳代以降の共同注意コミュニケーションの変化を検討する。現在、聾者母親の手話を発信する際の位置(通常の手話空間か空間の拡張)と、子どもの共同注意行動(自発的な注意配分か親の支持による注意配分)あるいは手話文法の参照(顔の動きを用いる文法表現をみるか否か)との間に関連性があるかどうかについて分析中である。 3.幼稚園期における聴覚障害児の手話言語発達の調査 幼稚園期の手話言語発達の特徴を明らかにする。現在、ろう学校幼稚部の聴覚障害幼児群が表した手話発話の映像データを手話の形態論レベルで書き起こしている。今後、日本語リテラシーとの関連付けを視野に入れて、手話の言語的特徴である、フローズン語彙、類辞、役割交替等の表現を抽出し、その種類、用法および意図内容との関係について分析する予定である。
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