本年度は、政党-支持者間関係において、支持者集団の投票決定基準を仮想的に変化させた場合に、政党がどのような政策上の立場をとるインセンティブを有するのかをシミュレーションし、結果について考察した。焦点は、政党支持者がその支持政党に「忠実に」投票する度合いと、政党の政策位置に支持者の政策選好が反映される度合いとの関係である。この際、有権者サーベイデータの計量モデル推定で得られたパラメータ(ただしクロスセクションでの分析結果)を用いて、より現実的と考えられる現代日本の投票行動モデルをシミュレーションに導入している。 この分析の結果は以下のように解釈できる。まず、支持者がより中道の政策選好を有する場合、その支持政党は、支持者の投票決定基準の変化にほとんど影響されない。次に、支持者がより「外側」にあたる(極端な)位置の政策選好を有する場合は、支持者の規模(人数)が鍵となる。支持者の規模が小さいならば、支持者の投票決定基準の変化は支持政党の政策位置にほとんど影響を持たない。支持者の規模が極めて大きければ、支持者がその支持政党に「忠実に」投票するほど、政党は支持者からより離れた政策位置をとるインセンティブを持つ。これに対して、支持者の規模がある程度大きいが大きすぎないとき、支持者の支持政党への投票の「忠実さ」が大きすぎても小さすぎても支持政党には支持者から離れるインセンティブがあり、中途半端な「忠実さ」を見せるときに最も支持者の選好が政党に反映される。ただし、これら分析にはいまだ精査すべき点が存在し、留保が付く。 また、より基礎的な方法論的研究も行なった。特に、この課題の応募時に述べた、社会調査データの分析における標本抽出バイアスなど、標本調査法について研究した。シミュレーションの手法を応用した分析の結果、副次的な成果として、社会調査時の層化に関する知見が得られた。
|