本年度は、研究計画に基づき、1980年代から現在までに至る認知症(痴呆、呆け)に対する取り組みを行ってきた団体などの資料収集に焦点を当てた。具体的には、出版ベースではない形で流通している資料を収集している日本福祉大学図書館、鉄道弘済会福祉資料室での閲覧と必要部の複写などを行い、次年度以降のデータ整理の基盤づくりを行った。これらの資料は、昨今の「新しい認知症ケア」の特徴を比較して描いていくための歴史的な資料であり、データ整理を早急に進めた上で、学術論文などの形で発表していく予定である。また、国内外の各種データベースを利用して、邦文・英文両方の、認知症ケア実践を報告した文献、認知症ケアやアルツハイマー病に対する取り組みについて扱った研究文献などの収集も行った。これらの資料については、理論的研究、ならびにレビュー論文としてまとめると同時に、国内の興味深い事例については、インタビューや参与観察の前段階の参考資料として用いている。 以上のような文献研究と同時に、当初より研究フィールドの一つと定めていた、デイサービスAに数回訪問し、若年認知症の人たちの集いの参与観察や、活動の責任者、スタッフなどへのパイロット調査的なインタビューを行った。このデイサービスでは、認知症の人本人の思いの聞き取りという新たな認知症ケアの試みを行っており、近年の「新しい認知症ケア」の動きの一端を示すものとして示唆的である。この調査の現在のところの成果については、「本人の『思い』の発見は何をもたらすのか-認知症の人の『思い』を聞き取る実践の考察を中心に」(三井さよ・鈴木智之編、2007年、『ケアとサポートの社会学』、法政大学出版局、第3章)という論文集の1チャプターの形で報告した。次年度も、引き続き比較事例として対象を広げつつ、このデイサービスの取り組みを掘り下げていく予定である。
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