研究概要 |
本年度は,研究課題における相対評価型選好を考慮した便益評価理論の構築,実証モデルの構築に関する検討を中心に研究を進めた.まず,便益評価理論の構築について,環境評価理論の一つである旅行費用法に着目し,参照点を有する相対評価型選好を考慮した厚生測度を定義し,定性分析を行うことにより,本研究から得られる知見についてまとめた.本研究の知見として,相対評価型選好を仮定した場合,通常の便益(等価変分,補償変分,消費者余剰)が相対評価型選好の特殊ケースとして定義されること,また,相対評価の影響によって,たとえば,海水浴場など,レクリエーション・サイトの環境改善事業を行った場合でも,参照点の変化によって,相対評価がゼロとなり,プロジェクトの便益が発生しない可能性が指摘された.次に,環境悪化事業を想定した場合,相対評価型選好の特徴である損失回避(Risk Aversion)の性質が便益に影響を与え,環境悪化事業の(負の)便益が,相対評価型選好を仮定しない場合よりも大きく,評価されることが示された. 次に,参照点依存型選好を考慮した実証モデルの構築について検討した.一つは,旅行費用法に基づいた需要関数内に,参照価格モデル(相対評価の影響を価格について考慮したモデル)を参考に,環境質に関するモデル構築を行った.その結果,環境質の価値(プロジェクトの便益)となる利用価値および非利用価値の双方に対し,相対評価型選好を考慮した実証モデルの構築を行うことができた.この実証モデルが理論との整合性を保つことを確認するために,既存研究から推計値を援用し,シミュレーションを行い,理論モデルとの整合性を確認した.次に,実証分析において起こりうるバイアスの問題,調査票の設計に関する問題等について見当を行った.一つは,レクリエーション地の複数の環境質があり,回答者の評価基準がどの環境質に注目しているのか,あるいは,いくつかの指標を統合指標を構築する必要があるのか,という相対評価の指標に関する問題,調査票のフレームから発生するバイアスの問題などが検討された.
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