研究概要 |
本研究の目的は,児童虐待の防止活動がもつ志向性を分析することによって,現代的な新しい現象として語られがちな虐待問題に対して,伝統的な暴力や放置に注目する新しい視点を提供することである。 そこで本年度は,児童相談所に寄せられた「虐待相談の処理件数」の二次分析から,虐待防止活動の地域差について考察した。相談の処理件数は,厚生労働省により1990年度から公開されている。件数は一貫して増加してきており,虐待問題への関心の高まりをみることができる。ここで,件数の変動を都市/地方別に詳細に分析すると,2000,2001,2002年度に都市/地方差が最大となっている。この時期は,児童虐待防止法の制定等により虐待防止活動がもっとも盛り上がりをみせた時期である。つまり,虐待防止活動の広がりのなかで,虐待は都市においてこそ発見されやすくなってきたのである。 虐待防止活動においては,虐待は,都市化や核家族化,家族機能の弱体化等の,今日的な現象と共に語られる傾向にある。こうした解釈では,現代的な都市型の養育・教育とは対極にある,伝統的な暴力や放置を用いたしつけの姿はなかなか見えてこない。たしかに,現代的で都市的な環境は,それ特有のリスク要因となるであろう。だがいっぽうで,伝統的な文脈における暴力・放置(=しつけとして正当化された暴力・放置)についても私たちは敏感でなければならない。
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