本年度に行った研究は、メキシコの代表的な貧困削減政策であるPROGRESAの財源配分に関して、主に連邦政府から州政府へ財源が配分される過程に焦点を当てた。具体的に、財源配分に関わる政治的決定過程において、受益者の貧困レベルと政治的要素がどのように影響を及ぼしたのかについての実証分析を行い、以下の成果を得た。 1.メキシコでの現地調査において、中央政府・州政府の同政策担当者、及び学識者にインタビューを行った結果、PROGRESA財源の配分過程に州政府が介入する可能性は低いことが判明した。 2.その背後には、PROGRESAの制度設計の過程で、中央政府(主として社会開発省)と州政府の間で政策執行の権限をめぐる激しい利害対立があったことが明らかになった。中央政府側の意向が優先された結果、州政府役人によるPROGRESA財源の選挙目的の流用を防ぐために、外部監査等の規制が強化されたことが分かった。 3.また、政府が設置した監査機関だけでなく、公的資金利用における透明性の向上を求める市民運動が活発化したことも、政治的利用を目的としたPROGRESA財源の不正利用を抑止するために効果的であったことが明らかになった。 4.メキシコ内務省市町村開発庁から、メキシコの2438全市についての貧困レベル、市長の所属政党、及び政党間競争度のデータを入手し、統計分析を行った。その結果、PROGRESA財源が貧困レベルの高い市に優先的に配分されていることを確認した。それと同時に、市長が当時の政権党にあった制度的革命党(PRDに所属していた市にも優先的に資金が流れていることが確認された。この背後にある政治過程の詳しい検証については、来年度の研究課題として認識された。
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