研究概要 |
本研究の目的は,社会不安障害患者の生理的反応に対する認知の歪みを修正する方法であるビデオフィードバックに,他者からのフィードバックを追加した方が効果が高まるか明らかにすることである。 本年度は,社会不安障害患者に対するビデオフィードバックの治療効果に関する最新の文献を展望するとともに,どのようなタイプの社会不安者において生理的反応に対する認知の歪みが強いか特定するために,582名の大学生を対象とした調査を実施した。調査材料は,スピーチなどのパフォーマンス場面に対する不安を測定するSocial Phobia Scale(SPS),会話などの対人交流場面に対する不安を測定するSocial Interaction Anxiety Scale(SIAS),生理的反応に対する認知の歪みを測定するCognition of Bodily Sensation in Social Anxiety Scale(CBS)を実施した。CBSは(1)生理的反応の知覚,(2)生理的反応が他者に気づかれるのではないかと考える程度,(3)生理的反応について他者から否定的に評価されるのではないかと考える程度,といった3つの側面で構成されている。 分析の結果,SPSで測定される「他者から観察されることの恐れ」が高い社会不安者は,生理的反応が他者に気づかれるのではないかと考える傾向が強いのに対し,SIASで測定される「対人交流場面に対する不安」が高い社会不安者は,生理的反応について他者から否定的に評価されるのではないかと考える傾向が強かった。したがって,他者から観察されることの恐れが強い個人に対しては,ビデオフィードバックを行い,対人交流場面を恐れる個人には,他者からのフィードバックを重視した介入が有効であると考えられる。これらの結果に基づいて,来年度は他者からのフィードバックをビデオフィードバックに追加することの効果を実験的に検討する。
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