研究目的: 業績予想は、将来の業績に対する見込みであるため、実績値との完全な一致を要求するのは、現実的ではないが、増益と予想しておきながら、実際は減益であったり、また減益でありながら、増益予想を開示したりすれば、かえって利用者の混乱を招きかねない。このような会社が他にも多く存在すれば、業績予想の修正を開示する精度を見直す必要が出てくる。そのため、本研究は、四半期決算短信で発表されている業績予想の修正に焦点をあて、まず業績予想の修正の特徴を明らかにする。そして、修正後の業績予想と業績予想の修正値が開示された後の証券アナリスト予想と比較することを通じて、予測情報の有用性の検証を試みる。 研究結果: (1)第1四半期、第2四半期と第3四半期決算短信で発表される経営者による業績予想の修正は、基本的に楽観的であり、年度末に近づくほど予想の精度が高くなる。 (2)証券アナリスト予想の傾向は、経営者による業績予想と同じで、楽観的であるが、精度は業績予想よりも劣っている。 (3)修正後の業績予想の精度は、その直後に発表される証券アナリスト予想よりも精度が高い。また、修正後の業績予想と証券アナリスト予想の乖離率の平均値との相関関係が低い。 以上の結果からは、四半期決算短信に含まれている業績予想の修正は、投資家にとって有用な情報といえる。証券アナリストは、修正後の業績予想をそのまま予想値に取り入れれば、精度の高い予想値を作成することができるが、相関関係の低さから、証券アナリストは、修正後の業績予想を元に予想を作成していないと考えられる。これは、証券アナリストが精度の高い予想を作成することよりもその他のインセンティブを持っている可能性が高いことを意味する。予想情報の有用性を高めるには、証券アナリストの予想を作成するインセンティブを特定する必要がある。これについてはさらなる検証が必要である。
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