研究概要 |
本年度ではインフレターゲティングに関する理論的および実証的分析を行った。まず第一に、近年先進国のみならず、東アジア若しくは東南アジアのようなエマージングマーケット諸国でも見られる市場別価格設定行動が見られる経済での政策目標として好ましいインフレ率の選択に関して理論的分析を試みた。この研究では、動学的確立的一般1均衡モデル(Dynamic Stochastic General Equilibrium Model, DSGE)をニューオープンエコノミーマクロ経済学(New Open Economy Macroeconomics, NOEM)タイプのモデルに拡張された市場別価格設定行動を仮定した2国モデルを構築し、生産者物価インフレターゲティングと消費者物価インフレターゲティングの2つの政策の産出およびインフレへの影響を分析した。先行研究では生産者物価インフレターゲティングがインフレと産出のトレードオフの解消の観点から望ましい政策であることが示されているが、本分析では市場別価格設定行動の下では消費者物価インフレターゲティングが望ましいことが示された。 次いで、小国開放経済を仮定したDSGEモデルを伝統的なS-VARモデルとを結合し、仮想的な政策シミュレーションを行い、日本での仮想的なインフレターゲティングの導入の効果を検証した。理論分析が指摘しているように、過去10数年間に渡り、インフレターゲティングが導入されていれば、経済厚生は著しく改善していたことが日本のデータでも示された。また、先行する理論分析で仮定されている対数効用関数、自国財と外国財の完全代替性の仮定を緩めた上で実証分析に臨んだことで、よりパラメータの制約が緩い経済では、生産者物価指数ではなく消費者物価指数ベースのインフレ率をターゲットにすることがより経済厚生を高めることが示唆された。
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