平成18年度は、日本医薬品企業の海外研究開発拠点によって米国特許庁に出願された米国特許、およびその引用特許に関するデータベースの作成を進めてきた。また、日本において関東圏に支社を持つ医薬品企業の国際事業本部の職員の方々に、日本医薬品企業にとっての海外研究開発拠点の位置づけについて、そして医薬品・バイオ医薬品分野の研究者の方々に、自らが所属する組織の内部と外部からの技術のスピルオーバーの決定要因に関するヒアリング調査を行ってきた。それらの調査から本国の研究開発活動から独立した基礎研究を主たる研究領域とする日本医薬品企業の海外研究開発拠点は決して多くはないこと、また技術のスピルオーバーの背後には研究者間の直接的、及び間接的なコミュニケーションが潜在することが示唆された。 本研究の目的は、医薬品企業の海外研究開発拠点の研究成果の決定要因を明らかにすることであり、特に技術のスピルオーバーの範囲に関する議論に着眼しているが、そこでは研究開発活動によって生まれる新たな技術の組織間の普及が国境によって制限されるということが前提とされている。そこで平成18年度には、同年内に作成した医薬品企業の米国特許・引用特許データベースの一部と、ヒアリング調査に基づき、「国際ビジネス研究学会第13回全国大会」での報告(2006年11月3日)において、日本医薬品企業の研究開発機能の対外直接投資と投資受け入れ国に内在する技術の獲得の関係性に関する実証的分析を通じて、国境が技術のスピルオーバーを制限する大きな要因となることを明らかにし、本研究の一つの前提の妥当性を確認した。なお、同学会報告に基づく論文は、現在『国際ビジネス研究学会年報2007年』へ投稿中である。
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